製菓男子。
「“大切なものって目に見えることばかりじゃないのに”」


地面を睨んでいたわたしの頭上にも、甘雨が降った。
草木を潤し、育てる雨のような宮崎さんの言葉。


「リコは、藤波さんに大切なものを気づかせてもらったんだよ。それは昨日のことがあってはじめて成立するのはわかる?」


わたしは言葉の代わりに、首を縦に振る。


「だから藤波さんのお陰で、リコも、ツバサも幸せになれた。人を幸せにできる人が、最低なわけがない」


(―――本当に、そうなんでしょうか?)


「僕の言葉が信じられないなら、僕の手を握って? 信じられるまで握って? 藤波さんにとって迷惑かもしれないけど―――でも今回のことと似たことがこれからもたくさん起きてくるんだと思う。月曜日に捕らわれ続けていれば絶対に。だから、そのたびに、僕の気持ちを信じてもらえるまで、たくさん触れてほしいって、思う」


宮崎さんの声色は単音で奏でるオルゴールのようにやさしくて、でもどこか寂しくて。


「僕の言葉が藤波さんにちゃんと伝わってるか、いつだって心配」


宮崎さんの顔がゆっくりと近づいてくる。


「手に触れる意外に、方法、ある?」


わたしは誘われるように、目を閉じる。
まるで最初から、その行為が決まっていたかのように、唇同士が触れあって、重なる。


「僕にはもう、この方法しか、見つからない」
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