製菓男子。
「帰ろっか」


傘を拾い、拾った先で、宮崎さんはわたしの空間を空けて待っていてくれる。


「あんまり意味ないけど」


甘雨は粒子の細かい霧雨になって、空に虹を作りはじめる。
鈍色だった雲の隙間から零れた光が、地面を照らし出している。
涙色をした傘が、水色にもなって、青にもなって、コントラストを変えていく。
色彩が豊かだ。


「わたし、こんな気持ちになるの、初めてなので、言葉が見つからないんですけど」


手にはやっぱり触れられないけれど、宮崎さんの隣にいたい。
雨が上がっても、隣の空間を開け続けてくれるなら。


「もっと、宮崎さんを知りたいです」


わたしは宮崎さんのそばによって、彼の服の袖にきゅっとつかまる。


「そんな顔で言われたら、殺し文句だよ」


藤波に殴られるのはこっちの理由かと宮崎さんは笑って、傘を傾けた。
宮崎さんはわたしが雨に濡れないようにしてくれている。




<おわり>
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