製菓男子。
「あの、わたしなら、なんとかできると、思います。あの、決して塩谷さんや宮崎さんのご迷惑になることは絶対にしないので」


ゆったりした口調が、途中から早口になっていく。


「あの、わたしの趣味ってお菓子作りで、家から材料とか持ってきますし――――家も近いですよ! あの、この子が欲しいものの材料があるかわからないですけど、でもでも、お願いしますっ」


直角になるくらいに身体を曲げて、藤波さんは頭を下げた。
けれど次の瞬間急に身体をもとの体勢に戻して、「ああ!」と泣きそうに叫ぶ。


「あのあの、もちろんお代とかいただきません! でもあれでしょうか、アンティエアーの商品じゃなきゃだめなのかな? そうだっ! 試作とかそんな感じで持たせて帰ったり、入ったばかりの新人が作ったものです、みたいな感じにできないでしょうか? でもそれだと、店の看板に傷がついちゃうし、自分で言っておいてどうしたらいいのか……」


なんだろうこの生物は。
藤波さんの弁明する姿は人間のようには見えず、小動物のようだ。
しかも臆病でおばかな。
飼い主だと思って全力で走っていったが、着いたら別人で、脱兎の如く逃げ出す犬。


藤波さんの接客姿を何度か見ているが、おどろおどろしいくらいにたどたどしい。
人見知りなのはこの一週間で随分理解したが、いささか極端なような気がする。
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