製菓男子。
「大丈夫？　チヅルちゃん！」


ミツキの声に藤波さんはタンポポのようなやわらかな笑顔を向けた。
けれど今にも涙が決壊しそうだ。


「大丈夫です。今日は、月曜日じゃないから」


確かに今日は火曜日で、月曜日じゃない。
けれどミツキの質問の答えとしては大きく外れている。


「そっちも心配だけど、そうじゃなくて！」


ミツキの制止を聞かず、藤波さんは少年の手を大切なものに触るように握った。
そして頬を桜色に染め上げて、遠くを見ている。
けれど少年を見つめているのに、見えていないような、視線が定まらない感じだ。
そして瞬きをひとつして、我に返ったように下を向く。


「わたし、家から材料を持ってきます。だから、二階の教室、貸してください」


藤波さんの意図がわからない。


「ゼン、言うとおりにしてくれるか？」


あまりにもミツキの顔や声が真剣みを帯びていたので、思わず僕は了承してしまった。



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