製菓男子。
「そうだお代、お代!」


ヒロくんはジャージのズボンから小銭入れを取り出して、わたしに百円を差し出した。


「お金はいらないよ」


慌てるわたしの横で、宮崎さんはヒロくんに一枚のカードを差し出した。
そこには店名とヒロくんの名前が書いてあった。


「証明書」


宮崎さんは短く呟いて、ヒロくんに受け取らせた。
いつのまに宮崎さんは用意をしていたのだろう。
夢中で作っていたから、気づかなかったのかな。


「これでヒロヒサが店員だったことが、お母さんにも伝わるんじゃないかな」


宮崎さんの言葉を塩谷さんが通訳している。
「裏も見てみろ」というのも、塩谷さんの指示だ。



『「アンティエアー」で親子教室を始めたいと思っています。うまくできるかわからないので、テスト生徒になっていただけませんか? 料金はかかりません。是非お暇なときに息子さんといらしてくれたら幸いです。 宮崎ゼン』



右上がりのシャープな字でそう書かれている。


「これなんて読むの?」


ヒロくんにはまだわからない漢字があるようだ。
それを読もうとする塩谷さんに「お母さんに読んでもらって」と宮崎さんは牽制した。
宮崎さんのほのかに色づいた、照れている横顔は、マジパンのウサギみたいにかわいい。
塩谷さんだけでなく、わたしまで頬の筋肉がゆるんでくる。


(なんとなくだけど、教室に通いたくなる理由がわかった気がする)
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