製菓男子。
宮崎さんはこのままここに残り、後片づけをするという。
わたしは後ろ髪を引かれながらも、塩谷さんと階段を下りてヒロくんを見送る。


ヒロくんの肩はハの字に下がっていて、後姿がどこか力ない。


「ちょっと、待って!」


わたしの口から、大きな声が出た。
あまりにも久々すぎて、喉から血が出たと思った。
その決死の成果なのかヒロくんの足が止まり振り返ったので、わたしは慌てて傍によって、もう一度小さな手に触れる。
脳裏にぱっと景色が広がった。


わたしは腕時計を持っていないので、塩谷さんに確認する。
五時半だと教えてくれた。


(そういうことか)


どうして宮崎さんがうちわを持ち出したのか、やっと理解することができた。
わたしが小学生だったとき、このあたりに住む子供たちの門限はほとんど同じ時間だった。


それに気づくと心の中にろうそくが灯ったみたいだった。

人にもらったやさしさを、思わずだれかにわけてあげたくなるような、あたたかいオレンジ色の炎だ。


「約束の時間が、すぎちゃったんだよね。門限、五時までなんでしょ?」


ヒロくんは「占い師さんみたい」と目を大きく見開いている。


「大丈夫、お母さんは怒らないよ。ヒロくんには妹がいるよね? 産まれたばかりの、赤ちゃんかな? そのお世話が大変で、お母さんはうたた寝していると思うよ」
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