製菓男子。
「チヅルちゃんもそんな格好してみたい?」
「いえいえ、わたしは」
「似合うと思うけど」


とんでもないですと塩谷さんの言葉に恐縮する。
わたしは一ヶ月前まで格好にまったく気を使わない、囚人のような引きこもりだった。
今でさえ制服に助けられているくらいなのだから、普段着で接客だった場合、お客さんだけでなく宮崎さんや塩谷さんまで失笑するに違いないと思う。


「似合うかどうかはわかんねーけど、妹の格好も頭つければそんな感じじゃん」


あっけらかんと言い放つ荒川さんは、きっと別の衣装と間違えている。


(それはロリータというより、メイドじゃないだろうか)


そんなことを思っていると、レッスンを終えた宮崎さんが店の外で生徒さんたちを送り出している姿が見えた。
その生徒さんたちはふたりで、わたしが勤めはじめてから初めて仲よくなったヒロくん親子だった。
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