製菓男子。
一度教室へ戻った宮崎さんはケーキとパンを持ってきてくれた。


「ゼン、夏はどうすることにしたんだ?」


宮崎さんから受け取ったケーキを塩谷さんが厨房で切りわけている。


「今日うまくいったから、やりたいと思ってる。ただ、三時間だと難しいかも」


通常の授業は午後からなのだけれど、今日は特別に一時間以上早く来てもらっていた。


「チヅルちゃんに今以上に頑張ってもらえばどうにかなるんじゃない?」


塩谷さんの視線がわたしに向いているのがわかっていたけれどあえて外し、明後日の方向を見た。
意図しなかったことではあるのだけれど視線の先に宮崎さんがいて、目があってしまった。


「できる、大丈夫」


宮崎さんの視線は、いつも体温がこもっているように感じる。
だからふっと外されてしまうと、寂しくなってしまう。
そんなことを感じるなんて、今まで一度もなかったから、この気持ちに名前がつけられずに困っている。
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