製菓男子。
塩谷さんがじっとわたしを見るので、観念して答える。


「今日、寄らなきゃいけないところがあるんですよ」
「珍しいね」


塩谷さんはわたしが自宅と店の往復しかしないことを知っている。


「兄が今日出張から帰ってくるので、それまでにジャンプを買っておかないと」


兄は書店で定期購読をしている。
買い忘れを防止するためらしいけど、わたしにとっては「出張先でもどこでもジャンプが買えるだろ」と吼えたくなるくらいに迷惑行為だ。
発売日は変則的な祝日が続くゴールデンウィークのため合併号になっていて、先月の土曜日に発売している。


(そもそも自分が帰るついでに取りに行けばいい話じゃないか)


兄はいつだって横暴で、理不尽を押しつける傾向にある。


長期出張中の兄はおそらく、あと数時間くらいで帰ってくるだろうと思われる。
タイムリミットはそこで、間にあわなかった場合、手榴弾がわたしの陣地に投げ込まれてしまう。


「親父さんに買ってきてもらえばいいんじゃないかな? 電話なら貸すけど。チヅルちゃん、ケータイ持ってないでしょ?」
「ありがたい言葉なんですけど、父も今家にいないんです。父は兄の出張を見計らったように先月の二十八日から休みに入っていて旅行に行っています」


だからなんとしても、わたしが買いに行かなくてはならない。


「ひとりで?」
「あの、いえ、それが―――」


言葉を濁すと「また病気がはじまったの?」と訊かれた。


「父は今独身なので、病気ではないと思うんですけど……」
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