製菓男子。
「連れてこうか?」


シフォンケーキを焼いていた宮崎さんが、厨房と販売スペースの丁度真ん中に立っている。
声と一緒に紅茶の香りもしてきたから、チャイのシフォンでも作っていたのかもしれない。
首を伸ばして宮崎さんの後ろを窺うと、作業テーブルに焼きたてのシフォンケーキが型に入ったままいくつも逆さまになっていた。


「連れて行こうかって、ゼンはいつも自転車じゃないか」
「気分」
「気分で車で来たってことね」
「うそ、天気予報見た。帰る頃豪雨になるって」
「どっちだっていいよ、もう」


塩谷さんは少々呆れ気味だ。


店の裏側は月極の駐車場になっていて、そこを三台借りている。
主に従業員用のスペースなのだけれど、店頭に停められなかった車も空いていればそこに置ける。
塩谷さんはそこによく車を置いているのだけれど、宮崎さんは少しでもお客さんが停められるようにと自転車や徒歩で通勤している。
塩谷さんと違って宮崎さんの住む家は自転車で五分くらいの場所にあるらしい。
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