製菓男子。
「まだ作業途中じゃないのか?」
「問題ない。冷ますだけ」
「作る量少なくないか?」
「明日から和菓子屋さんが賑わう」
「ゼン、微妙に拗ねてる?」


ふんと宮崎さんは顔を逸らすと、先ほどとは一転しておかしそうにけらけらと塩谷さんが笑う。
意味がわからなくてわたしはふたりを交互に見た。


「あさっては五日でこどもの日。当日が一番売れるだろうけど、前日あたりから動きがあるんだよね」
「そっか、柏餅!」
「ここらへんはまだ古くからの伝統やら風習が色濃く残っている地域だから、明日はそれほど混まないだろうね。そうでなくても連休は地元から離れて買い物とか、旅行とか、遠出にはぴったりだから」


うちでも柏餅置くか? と冗談めいて塩谷さんはつけ足す。


「あんこ苦手」


「でも小豆は平気」と宮崎さんは補足する。


「知ってる。あんこ独特の甘ったるい臭いがいやなんだろ。よくパン屋で暮らせてるな」
「僕も不思議」


宮崎さんの自宅は老舗のパン屋さんで、皮肉なことにアンパンが有名だ。
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