製菓男子。
一仕事終え、同じ店内にいるはずの宮崎さんの姿を探した。
迷路のように広い店ではないから、雑誌、コミック、文庫コーナーと順に見て周り、文芸書のコーナーで宮崎さんを発見した。


(なにをそんなに真剣に読んでいるのかなぁ?)


存在に気づいていないことをいいことに、わたしは音を立てないように宮崎さんの隣に立って、持っている本の表紙を確認する。


(「こどものすききらいをなくす本」??)


料理本でもないようだし、どんな内容かなぁと覗き込む。


「近い」


顔を上げると、宮崎さんがさくらんぼみたいな赤い顔をしている。
わたしは人ひとり分の隙間を忍者みたいに咄嗟に空けて、宮崎さんに頭を下げる。


「あ、ごめんなさい。なにを読んでいるのかなって気になって。顔、近かったですよね?」
「違う。不意打ち、ずるい」
「ずるい?」
「うん、その顔」
「その顔?」


宮崎さんは片手で本を開いたまま、もう一方の手をわたしの頬に伸ばした。


「だから、この顔」


一瞬のことだったけれど、触れられたところが火傷をしたみたいに熱くて、ひりひりした。
そのあとなぞるように自分の手を置いたら、冷たくて気持ちがいい。
宮崎さんの体温はわたしより高いことは間違いない。
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