製菓男子。
真正面から見た高校生の瞳は少女漫画のように大きい。
高校生の笑顔はゼリーみたいで、張りがあってぷるぷるやわらかい感じがする。
味はソーダっぽくて、爽やかにも見えた。


「ゼンくんの彼女?」
「友達の妹」


宮崎さんが言っていることは紛れもない事実なのだけれど、「他人」とばっさり切り捨てられたような完結な言葉に、胸がちくりと痛んだ。
わたしは学生の頃もこんなに人と会話を交わしたことはなかったし、親しくしてもらったこともなかったから、図々しくなってしまったのかもしれない。


「またまた。ゼンくんと一緒にいる女の子、今まで見たことないよ」
「そう?」
「そうだよ、そう!」


少し俯いてしまったわたしに、高校生は「ゼンくんとは家がお隣同士なの」と教えてくれた。


「だからゼンくん、ホモじゃないからね」


そんな誤解はまったくしていなかったのだけれども、その言葉が衝撃的だった。
そうでなくても会話スキルが足りないわたしの言葉が、さらに失せてしまう。

「ツバサ、僕の傘、使えない?」
「むしろ使って欲しいんでしょ」
「うるさい。じゃあ貸してあげない」


宮崎さんは高校生から傘を遠ざけている。


「ゼンさま、かみさま、ほとけさま、どうか貸してください」


神頼みするように高校生は手をすりあわせて、宮崎さんの顔色を窺った。


「冗談、どうぞ」
「ありがとう、ゼンくん」


高校生は傘を受け取ると、わたしに手を振って雨脚が強まる中、走って軒先から出て行った。
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