製菓男子。
強がるわけではなかったのだけれど、唇をきゅっと噛んで宮崎さんに傘を差し出す。


「あのっ、ここまで連れてきてくれてどうもありがとうございました。よかったら傘、使ってください」


それじゃあ失礼しますと無理やり傘を押しつけて、軒先から出る―――と思ったら、手首を掴まれてそれを阻まれる。
手首、だけれど、確実に宮崎さんの指がわたしの手に触れている。
わたしの脳裏にスポットCMを見るような短さの、別次元の映像が流れる。


「藤波さん?」


声をかけられて、わたしはやっと我に返れた。


「そういう意味じゃない。藤波さんの顔を見ていると、なんだか照れる」


掴まれていたわたしの手が大きく振るえ、宮崎さんが「ごめん」と放してくれた。


「だから僕に、藤波さんを送らせて?」


宮崎さんの声は靄がかかったように、わたしの耳に響かない。



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