製菓男子。
「なにじっと、チヅルちゃん見て」
「知らない。なぜか目で追っちゃう」
「その気持ちはわかるけど、仕事しよう、仕事」


ミツキは誤解をしている。
その言い方だとミツキも僕も、藤波さんに同僚以上の気持ちを持っていることになってしまう。


「わかってない、違う」
「なにが違うんだ?」


藤波さんはうちの店の従業員で、藤波の妹で。
ちょっとおばかな犬みたいな一面もあって、そうでいてよく泣く不安定さもある人だ。
自分の身近にいるタイプのどれとも違うから、観察したくなってしまう。
たまに言葉にできない強烈な感情を抱くこともあるけれど、それは興味心から出てきたことだろうと思っている。


「別の事情」


煙草を僕は吸わないが、その煙が自分の中で溜まっているようで、どこか煮え切らない。
思い切って聞いてみようか。
昨日ツバサから頼まれたことを。


「藤波さんって若葉高校出身?」
「たぶんそうだったと思うよ。前にエイタが“どうしてうちの母校の制服を着なかったんだ”って嘆いていたことがあるから」
「どうして?」
「中学の制服とほとんど変わらないだろ、あそこの。つまんなかったんじゃないのか、あのシスコン」
「うちもセーラー服と学ラン」
「そうだけどさ、学ランはボタン式じゃなくてファスナーだし、女子もセーラー服ったって、スカートフレアだろ」


ミツキの補足情報によると母校の制服は「珍しい制服百選」にというものに選ばれているらしい。


「そうだったっけ?」
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