太陽と夜に舞う月 前編
迷う余地もなくそこに逃げ込んで、店員の案内など無視して女子トイレに逃げ込んだ。
はやる気持ちを落ち着けて、ゆっくりと深呼吸をするとともに、気配を消す。
精神的にも追われていたせいか、普段ならこんなに息は上がらないのに……
落ち着いたところでゆっくりとトイレのドアを開け外を確認した。
よし、追ってきてない……
「ふー…、、」
とりあえずトイレを出て近場の席に着くと店員がだるそうに水を持ってきてくれた。
「ご注文の際はそちらのボタンをお押しください。」
そう言って、無愛想に去っていった店員の背中を見ながら、男の特徴を思い出す。
あの殺気、あの笑い方、あの目……
間違いない……
私は逃げたつもりでも、逃げられていないんだ…
「結局はあの人の手の上ってことね…ハハハ…」
乾いた笑い声と共に悔しさがにじみ出る。