姫はワケあり黒猫様
「あー…
急なんだけど、ちょっと着いてこれる?」
……着いてこれる?
『誘拐かっ‼』
「違うだろ」
適確なツッコミを入れられて肩を竦めながらポケットに手を突っ込んだ。
「……おとなしく着いてきてよ」
『……へ?マジで言ってんの?』
思わず間抜けな声を出すと、玲がニタリと口角を上げた。
「それ以外に何がある?」
『…………』
ヤバイかも……
ケーキが食べられないかもしれない…!
←バカなんじゃないの
どーしよ…
うむ………アレしかないか…
咄嗟に思いついたこと実行に移す‼
それが一番手っ取り早い‼
『…あー‼』
私が叫んで空の方向を指差す。
それに全員反応してそっちを見た…瞬間。
「あっ、ちょっ那琉‼
てか手段古っ‼」
古くて悪かったなっ‼
『逃げるが勝ちって言葉を知らないのかにゃっ‼』
「知ってるけどあんま使わねぇよ!」
「そして“にゃ”ってなんだ」
後ろから複数の足音が聞こえたけど、止まること無く走り続けた。
「てか意外に足速ーー‼」
佳祐のそんな声を耳にいれながら必死に足を動かした。
ーーー
玲と遠矢、夕季はその場に残り話をしていた。
「お前が追わなくてどうすんだよ」
「………いいさ。解らしてやれば」
夕季が呆れたように言葉を漏らすと、それに反応したのは言われた玲ではなく、遠矢だった。
「………帝王に目をつけられて、逃げられると思えなくしてやればいいさ」
冷たい笑みを浮かべて空気を睨みつける遠矢。
その悪魔のような姿に夕季は背筋を震わせた。
「………逃がすかよ」
玲の小さな声は空気に溶け込んだ。
その手にはしっかりと黒い携帯が握られていた。