姫はワケあり黒猫様
夕季はムスッとした表情をしながら前だけを見据えていて私を視界に入れようとしない。
響は楽しそうに笑いながら携帯を弄っているし、遠矢と玲はさっさと座るし。
………で?
『私、よく考えたら何しにここ来たの?』
「………義務?」
『そんな義務は課せられていません』
響がゲラゲラと笑いながら「英才教育!」と叫んだのに近くにあった雑誌を顔面に飛ばした。
「おまっ、車ん中から手ぐせ悪りぃよ‼」
響は携帯を落としそうになりながら雑誌を顔面から剥がす。
………ざまぁww←
「那琉」
『んな?』
「ここ、座れ」
玲は黒の2人用ソファらしきものに座っていて、少し右にずれてポンポンと隣を叩く。
………座れと。
『はー…
長居しそうなカンジですか?』
「うん、そだねー」
優はクスッと笑いながらニコニコと私を見ている。
……何でお前だけそんな楽しそうなんだ。
怪訝な表情で睨むと、優は顔を俯かせてブフッと噴いた。
噴くな、バカ。
ふて腐れながらドサッと玲の隣に座った。
玲は口角を上げて私の髪を触り出した。
………毛先が上げられてりして首に掠れて少しくすぐったい。
『………んっ…』
「「「………?!」」」
皆はそれぞれ思い思いの事をしていたのに、急に私達に目を向けた。
「へ、変な声出すなクソ女‼」
『はぁ?』
夕季が真っ赤な顔でそう叫ぶ。
「わー、ヤってるみたいだったー」
「紅羅………」
「もうちょいオブラートに包んでよ」
「包んだら面白く無いじゃ~ん」
「「………」」
玲の手も動かず、ずっと私の髪を握っている。
チラッと玲の顔を見ると目を見開いて固まっていた。
『………何もしないなら離して』
そう言うと、玲は顔を逸らして髪から手を離した。
優は1人ニヤニヤしながら「隣の部屋行く?」と言っている。
玲がそれを睨みつけるのが横目に見えた。
その玲の顔が、
少し赤みを帯びている気がした。