姫はワケあり黒猫様
『泣いた……ものすごく、泣いた…』
「うん、泣いてた泣いてたー」
隣でケタケタと笑う優を横目に睨みつけながら目尻を引っ張った。
『赤い?』
「さっきよりは引いたよ」
遠矢は苦笑しながらそう言ってチラリと時計を見た。
時計の針は7:30を差している。
外は暗くて月明かりが大地を照らしている。
「那琉は滑舌悪いのか~?」
響がへらへら~と笑いながら、私に聞いてくる。
『……何で?』
別にそんな決定づけられる出来事は無かったと思うんだけど……
「無くなったじゃにゃいか~って叫んだ時さ、猫語だったから。」
『うむ、猫は確かに好きだ』
でも、滑舌は関係なく無い?
「猫ねぇ~…」
響は目を細めて猫のすがたを脳内で思い浮かべているのだろう。
『猫って可愛くない?!』
「俺、引っ掻かれて以来嫌いだゎ~
遠矢は?」
響はひらひらと手を振ってパス、と言いたげに遠矢に雑に話をふった。
「ん?別に、かな。
好きでも嫌いでも無い」
『あっそ』
ここは敵地帯だ。
猫が好きでは無いなんて、人生の1分の1損してる。←全部じゃん
うるさい、作者ばかやろー。
猫は人生に要るんだよ。
8:00を示した時計を見て皆を見てから口を開く。
『……そろそろ帰るー《にゃんにゃがにゃんにゃんにゃーんにゃん~♪》
急に流れ出した音楽に皆は顔を見合わせる。
「……那琉、だよね」
『うみゅ、』
携帯を取り出してそれの通話ボタンを押した。
『……はい』
「ーーー」
『……うん、タクシー拾うから、大丈夫。
ありがと』
私の声のトーンの落ちようにびっくりしている皆を見て苦笑してから電話を切る。
『帰るね。
バイバイ』
何も言われないように帰ろうと立ち上がると、玲も立ち上がる。
『どしたの?』
「送る」
『え?タクシー拾うから…』
「姫になったんだローが」
玲は溜息混じりにそう言ってからドアに向かって歩いて行った。
「じゃーねー」
皆がそう言ってくれるのが……
とても嬉しかった。
急いで玲の後を追いかけながら少しだけ感動していた。