姫はワケあり黒猫様
「お前の家はコンビニか?」
『何言ってんの、違うに決まってるじゃん』
「じゃぁ、家の場所を答えろ」
……………
『………言ってもわからないと思うけど……』
「何だ?マンションか?」
『うん………
“伊音財閥”の新しいマンションなんだけど………』
「………そこ行け」
「ぁ………ぇと、〈咲魅夜〉ってとこであってますか?」
運転手さんは戸惑いがちにミラー越しで言ってきた。
そっか、最近のマンション沢山作ってたしね……
『あ、はい』
「……………」
車が走り出してからは誰も口を開く事をしなかった。
ただ、嫌な雰囲気ではなかった事は…言える。
景色を眺めていて、止まったと思ったら家となった場所に着いていた。
『送ってくれて、ありがと』
「あぁ………」
『運転手さんも、わざわざありがとうございました』
「え゛?!あ、いや………」
運転手さんは私に勢いづけて振り返って顔を真っ赤に染めた。
それに玲が静かに舌打ちしたら、私に「またな」と言った。
『うん、またね』
マンションの中に入ってコードとやらを打ち込む。
マンションの中には沢山の人。
その人達は私を見て微笑んで頭を下げ、「おかえりなさい」と言う。
………表面上の言葉など、欲していないのに。
『ただいま、です…………』
やっぱり、息苦しいよ。
『…………ただいま』
何もカエってこない。
帰ってきて、返ってきて、カエッテキテ。
『…………ふ、…く……』
1人は寂しいよ。
あっちでも、こっちでも。
“家族ごっこ”なんかじゃ、心は満たされないよ。
月明かりの中、ソファの上で静かに泣いていた。