姫はワケあり黒猫様
「那琉が大人になっても、ずっと、
支えてあげる。」
ごくり、とほんのりと熱い液体が喉を流れていく。
悲しい程、儚い笑みを浮かべた成音は
私に飼われている。
自覚があるのに、首輪をとってあげられないのは
……私が、弱いから。
『……成音、まだ大丈夫なの?』
「あぁ。
もう行く」
空のマグカップをガラステーブルの上に置いて、ネクタイを締め直す。
『ごめんね、』
「うん、またね」
「…またね」
ニコッと笑う成音は、どこまでも強くあり続ける。
それは、自意識過剰でも何でもなく
私の為。
心のどこかで、成音に自由に羽ばたいてほしいと思っているのに、
一方の心の隅では成音は唯一無二だから手放したくないと思っている。
矛盾した心は私を引き裂く原理なワケだ。
『……』
成音の消えた部屋に、
成音のミントの匂いがすっと残った。