姫はワケあり黒猫様
ガキかこいつは。
私もさすがに呆れた視線を送ると何となく空気で察したのかおとなしくなった洸。
「……いつ、帰ってきたんだ?」
『昨日かなぁ~』
「はぁ?」
ぱかっと口を開けて呆然とする洸に苦笑を返す。
『こっち来てすぐにせーちゃんに連絡して、転入手続きしたの。
おかげでほぼ徹夜だよ』
「あぁ、少し溜まってんな」
欠伸を零すせーちゃんにつられて私も欠伸をした。
『欠伸うっちゃったじゃん‼』
「知ーるーかー。」
グリグリと私のこめかみを押さえつけるせーちゃんの力って……
『冗談にならない位痛いからっ‼
離せばかちん‼』
「あ?悪りぃ、わりぃ」
絶対悪いと思ってないでしょ?
離してくれたところを自分で摩りながら目に入った時計に体が硬直した。
『……鳴る』
「は?那琉?」
『漢字違う‼発音も違う‼
ってそれはどうでもいいんだっ‼
鳴るっーーーーー〈キーンコーン……〉
……ほら、鳴った。
「ああああぁぁああ」
洸が叫びながら勢いで立ち上がった。
「ちょっヤバッげっエッ」
「うん、落ち着け。何言ってるかわかんない」
「よ、よし、この際ゆっくりと行こう。
そうだ、そうしよう。
転入生の手続きやら説明で遅れたって言えばいい……」
ブツブツと呟く洸に哀れんだ表情をするせーちゃん。
『私、洸のクラス?』
「あぁ。
頑張れよ?」
『私を誰だと思ってるのだ』
「那琉」
『……ま、そうですけど…』
そうじゃないでしょ、と言いたかったけどせーちゃんに頭を撫でられて黙った。
……あの頃の手と変わんないや。
こころが少しあったまった気がした。