あなたが教えてくれた世界
富?名声?権力?
一体、それらは本当に価値のあるものなの だろうか?
息を休める間もないこの窮屈な日々を我慢 させられるだけの、立派な価値のあるもの なのだろうか?
それらが一体、自分に何をもたらしてくれ ると言うのか?
女王である妻のアイリトスとも最近ろくに 会話を出来ていない。
自分があの過ちを犯してしまってから、彼 女とは今も気まずい状況が続いている。
……いや、一つだけ、確実に手に入れて後 悔のしていないものがあった。
娘のアルディスだ。
この国の第二王女であるアルディスは、国 内外問わずから美しいという評価をいただ く。
使用人からは少し無愛想だと思われている らしいが、少なくとも自分の前では、アル ディスは微笑みを絶やさない礼儀正しい娘 だった。
会える機会は少ないが、その度に温かな気 遣いを見せてくれる。
このままディオバウンの勢いが続けば半年 後にはこの皇都ロアルメニアにまで戦場化 するという噂を聞く。
国王としてそれは阻止するつもりだが、も し間に合わなかった場合……。
アルディスだけは、何としても助ける。フ レグリオはそう決めた。
* * *
その頃、皇宮の中心楼最上階、王女の自室 にて……。
「お嬢様、お食事お下げしますね」
そう言いながら、アンは慣れた足取りで部 屋を横切り、食事を片付けた。
アルディスは今日も、何の反応もよこさず に、家庭教師の言いつけを守って聖書を読 んでいる。
─10─