あなたが教えてくれた世界
次の瞬間、アルディスの表情はまた無へと戻り、まるで何もなかったかのような沈黙が再び訪れた。
先ほどと違う所は、オリビアの顔にだんだんと驚愕の色が浮かんでいく所か。
横にいる三人の騎士の視線を受け、ハリスははっと我に返り、場をまとめようと頭を動かし始める。
「……えっと、それじゃあこれからは自由時間で。誰かしらアルディス様の近くについているように。……ああ、それから、各自で自分の乗る馬に水をあげておいてくれ」
「はい」
騎士たちが返事をして動き始めたので、だんだんと集団はほどけ始める。
やがてその場に残ったのは、未だ驚愕の表情を隠せないでいるオリビアと、その横に座るアルディス。
少し離れた所では、見張りもかねてハリスが残っていたが。
しばらくして、ようやくのろのろと頭が回り始めたオリビアがアルディスの隣に腰を下ろす。
(……信じられないわ……)
彼女の頭の中では、先ほどのアルディスの言葉が何度も反芻されていた。
ぎこちなくだけれども、しっかりと自分の言うべきことを、誰に言われるでなく自分からやったアルディス。
それは、アルディスが今のようになってから、彼女が一度も見たことがない姿だった。
(アルディス……どうしたの?)
隣の義妹の横顔を見つめながら、オリビアは心中で問いかける。
(あなたの中で何かが、変わろうとしているの?)
疑問は頭の中で強く浮かぶけれど、オリビアは決して口に出そうとはしてこなかった。
口に出して踏み込んではいけないものだと思っていた。
(アルディス……あなたは今、何を考え、どう感じているの?)
──しかし、どんなに見つめても、横顔は何も答えてはくれない。