あなたが教えてくれた世界
普段それとなくオリビアに言われている、『自分と周りをしっかり見つめて』と言う言葉をなんとなく思い出したが、過ぎてからそうしても遅い。
それに……出来ないのだ。
アルディスが自分を外に出し、周りと繋がろうとすると、それより先に“あの”記憶に繋がる。
──薄暗い地下室、集まる人々、溜まり込んだ臭気、……肌を刺すほどの、向けられる憎悪。
何度やっても、同じだった。
だからアルディスは、“アルディス”を外に出そうとするのをやめた。
思考の渦にはまりこんでいたアルディスは、イグナスがこちらを向いた事に気付くのが一瞬送れた。
気付かないうちにまじまじと凝視していたのだろう。
ほんの一瞬、しかし確実に、目が合う。
次の瞬間にはアルディスが反射的に目を逸らしていたので、はた目には何事もないはず、なのだが。
──どうして……?
わずかに上がった自分の心拍数を感じ、アルディスはそんな疑問を浮かべていた。
あの目、あの目なのだ。
さっきの一瞬、ほんの一瞬なのに、アルディスは彼の目を見ていられなかった。
その前の自己紹介の時もそう。
周りの視線が、何の反応も示さない自分に向かってきているのは頭の隅でわかってて。
それでも、いつものように素通りして、自分は何もしないつもりだったのに。
まっすぐに向けられる、あの目を見た瞬間、アルディスの中の“何か”が動いた。