あなたが教えてくれた世界
『…………アルディス・ラ・シュミット…………よろしくお願いします…………』
あのとき、唇が勝手に紡いだ言葉。
皆が自己紹介をしていると分かっていても、それを自分とは繋げていなかったのに。
あの、漆黒の瞳に何かが突き動かされて、自分が何もしないことに強い焦燥を抱いたのだ。
アルディスが言葉を発した直後、オリビアなんかはものすごく驚いた顔をしていたが、あの時、表情にあらわさなかっただけでアルディスが一番驚いていた。
今もまだ、だ。
今まで、こんなことはなかったのに……。
アルディスは、あのまま通りすぎていった黒髪の騎士の後ろ姿をそっと見上げた。
これまで自分が貫いてきた、周りとの向き合い方、過去からの逃れ方。
それが通用しなくなるかもしれない事に、その原因となるかもしれない漆黒の瞳に、底知れぬ恐怖を覚えた。
* * *
『姫様の様子はどうなんだ?』
『まだ寝込んでいらっしゃるらしいわ。あんなことがあったんだから当然よ』
『でももうあれから1ヶ月もたったんだろ?まだおさまらないのか』
『知らないわよ、よくわからないけど、まだ幼い姫様にはショックが大きすぎたんじゃないかしら』