あなたが教えてくれた世界
雨は一向にやむ気配を見せない。それどころか先ほどよりますます強くなっていて、風を防いでいた木の幹から離れると余計にそれが感じられた。
風が彼女のドレスをはためかせ、枝葉の間からこぼれ落ちた雨粒が、肩を濡らしていく。
その冷たさに、それまでの動揺が少し落ち着いたその時、
突然巻き起こったひときわ大きな風が、アルディスの長い髪をかきあげた。
それを認識したと同時、まるでその風とともに運ばれてきたかの如く、たくさんの感情が濁流のように押し寄せてきた。
(……、あっ……)
痛み、苦痛、悲しみ、不安、絶望、苦しみ、恐怖……。
そんな、もやもやとした負の感情が、あの幼い頃と同じように襲ってくる。
(どうして……)
おかしい。こんな発作は、もう何年も起こっていなかったはずなのに。
そしてやはり、身体は拒絶反応を示して、全身から嫌な汗が吹き出し始める。
きっと流れてきたこの感情のもとは、近くにあるという小さな村の住民だろう。
農業で生計をたてている者が多いあの村では、戦争によって男たちが徴兵されてしまい、村の状況が悪いというのが、あの負の感情の理由だろう。
さらに、軍事費にあてるという理由で重くなった税も、さらに追い討ちをかけているようだ。