あなたが教えてくれた世界
だったら……使用人ごときなどと会話する 気は毛頭なく、見下しきってあえて無視し ている?
しかし、お嬢様からそんな雰囲気は微塵も 伝わって来ない。第一、それなら今回の用 件にしっかり反応してくるはずだ。
これはアンが勝手に感じた事なのだが、お 嬢様はちゃんと聞いている……しかし、そ れを脳みそが受け取っていない……?
何と言うか、彼女は回りに関心がなく、運 命に身を任せきっているような感じがする 。一歩間違えれば、躊躇う事なく自らの命 を捨てそうな。
(……いや、まさか……)
仮にもアルディスはこの国の第二王女であ る。幼い頃から不自由なく暮らしてきた彼 女がそんな闇を抱えている筈がない。
そう思い直し、アンは改めて今の状況を顧 みた。
ほんの数刻前、アンがいつものように昼食 をさげに行こうとしたとき、先輩使用人に 晩餐会の用意をさせてくるようにと言われ た。
当然ながら、晩餐会に遅刻は厳禁だ。放っ ておく訳にはいかない。
しかし、このまま話しかけ続けても、事態 はなにも変わらない気がする。
どうしよう、とりあえず戻って、誰か先輩 の慣れている人を呼んだ方が良いのだろう か……。そう思案していた時だった。
「アルディス、ちゃんと聞いてるの?」
不意にアンの背後から、凛としたよく通る 声が聞こえてきた。
さっきはあれだけ反応を示さなかったアル ディスが、すぐに顔をあげて小さく呟いた 。
「オリビア……」
アンもそれにつられて背後をみやる。
そこにいたのは、アルディス付き使用人長 のオリビア・カスターニだった。
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