あなたが教えてくれた世界
アルディスは、震える足を一歩ひいた。
そのままパッと踵を返すと、まるで何かから逃げるかのように、森のさらに奥に向かって走り出す。
──自分を苦しめる声たちから、逃げるように。
* * *
(……なんかあった時の為にって、食料持ってきておいて良かったわ……)
アルディスの荷物とともに馬車に一つだけ置かれた木箱を覗き込みながら、オリビアは思った。
昨日の夜ふと思い立って、厨房の食料庫にあった適当なものを詰め込んで来たのだ。
日持ちのしそうなパンや、干し肉、芋やきのこなどを見ながら、オリビアは作れそうな献立を考える。
これだけ材料に種類があれば、皇女であるアルディスに質素な食事をさせなくて済みそうだ。
まあ自分とアルディスだけならともかく、騎士たちが四人もいるので、この量だと一食ぶんが限界だろうが。
ふと見ると、焚き火の準備はまだ終わっていなさそうである。火がないうちは調理にとりかかる事は出来ないので、それまでに下ごしらえをしておく事にした。
加熱が必要な芋やきのこはともかく、そのままで食べられるパンや干し肉であっても、火があるなら少し焼いて温めた方が美味しくいただけるだろう。
何より雨足が強くなって冷えてきている。温かいものを食べるだけでも、大分違うはずだ。
ナイフを取り出して芋の皮と芽を剥きながら(ちなみにこのナイフもオリビアが持参した)、オリビアの思考は続く。