あなたが教えてくれた世界



「もし何もなくて、ただふらっと散歩にでも行っているだけだと言う可能性も捨てきれないし、誰かがここに残ってなきゃいけないだろう。それに、帰ってきたアルディス様を、誰が迎えるんだ?」


「…………」


ハリスの真っ直ぐな瞳に、オリビアは何も言えなくなる。


そんな彼女に構わず、ハリスは五人に一つずつ煙筒を配り始めた。


「一人一つ、これを持っていけ。アルディス様を見つけた時や、賊と一緒にいた場合は戦闘前に使って知らせてくれ。雨は降っているけど、まだ見えるはずだから」


オリビアは渡されたそれを見る。地面に固定して、筒の中頃にある紐をひくと、中に入った火薬と発煙材が混ざって煙が上がるタイプのものだ。


「全員、煙に気を配っておいてくれ。もしあがったのが見えたら、出来る限りそちらに向かうこと」


「了解」


「それから、各自武器を持っていけ。場合によれば、抜刀も許す」


その言葉を聞いて、オリビアは思い知らされた気がした。


もしあのまま感情的にアルディスを探しに行って、見つけたとして。


彼女がもし誰かに拐かされていたのだとしたら、オリビアは相手に手も足も出せないだろう。


それぞれが武器をしっかり着用したのを見て、ハリスが口を開いた。


「以上の事を頭に入れて……、各自、散!!」


「はっ!!」


威勢の良い返事を残し、ハリスを除く三人の騎士は各々の方向に向かって走り出した。


同じく走り出そうとしたハリスは、ふと唇を噛み締めて煙筒を握りしめたオリビアを見る。



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