あなたが教えてくれた世界



ハリスはそちらに一歩より、その頬に手を添えた。


慣れない感触に、思わず唇を噛み締めていた力が緩む。


そんなオリビアに、ハリスは柔らかい微笑を浮かべ、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「オリビア、安心して。アルディス様は、必ず僕達が連れて帰るから。信じて待っていてくれ」


彼の瞳に見つめられてそう言われると、何故か安心出来てしまうのが不思議だ。


彼女はこくんと頷いた。


「わかった。信じてる。……気をつけて」


「ああ」


短くそう答えると、ハリスは踵を返して自らの受け持つ方向に走り出した。


オリビアは、その後ろ姿をしばらく見つめていた。





     *   *   *





イグナスは走っていた。


彼が任された方向は北。ちょうど、森の奥に向かう方向だ。


普通の賊なら、誘拐したらまず森を出ようとするはずなのでこの方向には来ないだろう。


しかし、騎士が何人もいる中、音も気配もなくあの少女を連れ去れるという手練れならば、その裏をかいてわざと森の奥に逃げ込むということもあるかもしれない。


あるいは、奥に拠点を構えた山賊の一味か。そうすると、向こうに地の利があるためこちらが不利になる。


すなわち……この道の先にいるとしたら、それは強敵だと言うことだ。


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