あなたが教えてくれた世界
逃げるその背にたたみかけるように叫ぶが、そんなことで彼女の足が止まるはずもなく。
何故か、追いかけるという思考が浮かばず、イグナスは一瞬それをただ黙って見送ってしまった。
慌てて足を踏み出すも、戸惑いは未だ抜けない。
てっきり出てくるのは賊だと思っていたのだが、そんな影は微塵もなかった。
だと言って、あんな色をした少女が何人もこんな森にいるわけがないし……イグナスを見たときの反応から察しても、確実に彼女だろう。
誘拐されたのではなかったのか……?
(……ああ!!くそ)
イグナスはまとまらない思考を放棄して走り出した。
考えるより先に行動した方が楽だし、考える事はいつだって出来る。
* * *
その漆黒の正体を認識したとたん、その場にいる事が耐えられなくなって、逃げるように奥に向かい走り出した。
「……あ?ちょ、待て!!何で逃げる!!……って言うか、賊はどうしたんだよ!?」
背後から焦った彼の声が聞こえてくるけれど、気になんか止めない。
(ぞく……?)
何を言っているのか意味のわからない部分に、アルディスは内心で首を傾げる。
けれどもすぐに、背後から彼の戸惑いと、誰かと戦うようなイメージが伝わってきて、すぐに意味はわかった。
つまり、彼はアルディスが誰かに連れ去られたのだと思っていたようだ。