あなたが教えてくれた世界



確かに、そう判断されるのも無理はない。


あの時あの状況の中で、彼女が逃げ出す理由なんてなかった筈なのだから。


本当は、何も言わずにいなくなったことが間違いであったこともわかっていた。


わかっていたのだ。


彼女がいなくなったことで事態がややこしくなったことも、それでわざわざこの騎士が探しに来たんだと言うことも、本当はわかっていた。


わかっていた、けれども。


(知らない……)


今はまだ、戻る気にはなれなかった……追いかけているのはあのイグナスだし。


ようやく落ち着いてきたとはいえ、今誰かのもとへ行くのは……聞きたくない他人の心の声を聞いてしまいそうで、怖い。


だからアルディスは、走り続ける。





     *   *   *




どうやらイグナスは、少し長く考えすぎていたようだ。


我に返ったときに開いていた距離はなかなか大きかった。


(何してんだよ、俺は!!)


内心で色々と考えすぎてしまったとは言え、少女の走っていく姿を惚けたように見送ってしまった自分を悔やむ。


桜色の髪が、向こうの木々の右手に消えていった。


どうやら曲がったらしい。さらにイグナスは足を速める。


今、見失う訳にはいかない。


それはもちろん使命感からでもあるが、直感的にそれを感じてしまった自分もいた。


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