あなたが教えてくれた世界
確かに勝手にいなくなって、騎士達に余分な仕事をさせてしまったのは自分だけれど。
この男はその仕事を、面倒くさいと思いながらやっていたと言うのか。
そもそも誰の存在のせいで調子が狂ってしまったと思っているのか。
あの発作が起きたのだって、それと無関係ではないはずなのに。
イグナスに向ける理不尽な怒りをもて余しながら、それでもアルディスは顔を上げない。
「あー……、お前なんなの……」
お前なんなの……!?
何故そんな事を言われなくちゃならない。それを言うなら、目の前のこの男こそ一体何なのだ。
しかも、仮にも第二皇女に向かって、いくら知らないとは言え無礼すぎないか。この男は何様なのだ。
全身から不機嫌なオーラを漂わせるアルディスに、さすがのイグナスもそれを感じ取ったらしく、少し声の調子をあらためて問いかけてきた。
「……あー、うん、あれだ…誰かに連れ去られたとかいうわけじゃない、んだよな?」
アルディスは俯いたまま、こくりと頷いた。
「……じゃ何でいなくなったんだよ?」
また声の調子が変わった。
今度は疑問に思っている事が直接伝わってくる。
……今度は、アルディスは答える事が出来なかった。
説明のしようがないし、出来ないし。
したところで理解されないし、してもらえる筈がない。
──人の心が聞こえて、その発作が起きたなんて。