あなたが教えてくれた世界
黙り込んだまま俯いていると、どこか苛々したような口調で、何かを誤解したイグナスが言う。
「確かにお前みたいな奴からしたら、一ヶ月も旅だなんて嫌でしかないかもしれないけど、」
違う。そんな事が理由じゃない。
そう言いたくてチラリ、目線を上げると、まっすぐにこちらを見つめていた漆黒と視線が交わる。
(……っ!!)
その瞳を見てしまうと、結局何も言えずにだまりこんでしまう。
それに構わず、イグナスは続けた。
「お前を必死で心配してる人がいるし、少なくとも俺たちは全力でお前を守ろうとしてんだから、せめて協力くらいはしろ」
「…………」
無意識のうちに、アルディスは頷いていた。
何だか誤解されてるし、旅が嫌で逃げ出したわけじゃないけれど、この男の言うことは間違っていない……から。
一つ、気付いたことがある。
この漆黒は、いつもまっすぐに何かを見つめているんだ。
あんなに苦手に感じたのはきっと……、その瞳が、彼女のそれとは根本的に違っているからだ。
目の前の物を見ているようで、実際は全てから背けている自分とは……根本的に、違うんだ。
何に対してもまっすぐな人だな、とアルディスは思った。
この男の発する言葉が、伝わってくる思いと比べて矛盾点がない。
そう、たくさんの思いが伝わってきて、中には苛立ちなど彼女が苦手とする負の感情もあったけど、それを聞いても恐怖心は芽生えなかった。