あなたが教えてくれた世界



黙り込んだまま俯いていると、どこか苛々したような口調で、何かを誤解したイグナスが言う。


「確かにお前みたいな奴からしたら、一ヶ月も旅だなんて嫌でしかないかもしれないけど、」


違う。そんな事が理由じゃない。


そう言いたくてチラリ、目線を上げると、まっすぐにこちらを見つめていた漆黒と視線が交わる。


(……っ!!)


その瞳を見てしまうと、結局何も言えずにだまりこんでしまう。


それに構わず、イグナスは続けた。


「お前を必死で心配してる人がいるし、少なくとも俺たちは全力でお前を守ろうとしてんだから、せめて協力くらいはしろ」


「…………」


無意識のうちに、アルディスは頷いていた。


何だか誤解されてるし、旅が嫌で逃げ出したわけじゃないけれど、この男の言うことは間違っていない……から。


一つ、気付いたことがある。


この漆黒は、いつもまっすぐに何かを見つめているんだ。


あんなに苦手に感じたのはきっと……、その瞳が、彼女のそれとは根本的に違っているからだ。


目の前の物を見ているようで、実際は全てから背けている自分とは……根本的に、違うんだ。


何に対してもまっすぐな人だな、とアルディスは思った。


この男の発する言葉が、伝わってくる思いと比べて矛盾点がない。


そう、たくさんの思いが伝わってきて、中には苛立ちなど彼女が苦手とする負の感情もあったけど、それを聞いても恐怖心は芽生えなかった。


< 133 / 274 >

この作品をシェア

pagetop