あなたが教えてくれた世界
「はい」
口数少なく話を切り上げようとしたイグナスの背に、ふと思い付いたようにハリスは問う。
「……あれ、そう言えば、発煙筒は?使った?」
「……あ……」
イグナスがまずった、と言う顔をしたのが、アルディスの位置からでも見てとれた。
「……すいません、忘れてました」
申し訳なさそうに懐から発煙筒を出すイグナスに、ハリスは軽く笑ってそれを受け取った。
「わかった。使わなくても大丈夫だったのなら良いよ。本当に必要な時に使えればね」
「はい」
「そのうち残りも帰ってくるだろ……」
その言葉とほとんど同じくして、茂みを掻き分ける足音がして……カルロと、ブレンダが両方姿を現した。
「ほらね」
ハリスがイグナスを見て、ニヤリと笑った。
「ハリスさん、こっちにはいませんでした……っておおっ!?」
カルロはハリスにそう報告しかけて、オリビアに未だ両手を握られているアルディスを見つけて目を見開いた。
ブレンダも見つけたらしく、そちらに足を進める。
「アルディス様、ご無事だったんですね。良かったです」
どこか凛々しい笑みを向けられて、一瞬まじまじと相手の顔を凝視していたアルディスだったが、やがて居心地悪そうに口を開いた。
「……迷惑、かけてすいません……」