あなたが教えてくれた世界
それを言われたブレンダは、何やら慌ててそんなことはないなどと言っていたが、そのやりとりを見ていたイグナスは他の事が気になった。
(なんか……俺の時と態度違くね……?)
自分の時は目も合わそうともせず、だんまりを決め込んでいたのに。
そう言えばあの侍女にもハリスにもアルディスは柔らかい態度をとっていた気がする。カルロは……わからないけど。
(俺だけ……)
最後に見せた睨むような目を思いだし、お前と呼ぶのはさすがに失礼だったかと思うイグナスだが、彼の場合失礼を直すには呼び方以前の問題があるということに気付いていない。
そんな彼に、後ろからかなり陽気な声がかかった。
「おーい、イグナス聞いたぞ?お前がアルディス様見つけたんだってな?何があった?お?お?」
明らかにこちらをからかうその口調に、腰に携えている長剣で切りつけたくなる衝動を押さえながら、イグナスはうんざりしたように言う。
「お前はなんなんだ……。何もねぇよ」
「お?イグナスくん本当に?どうせお前の事だからあーゆー事にはなんないだろうとは思ってたけど、アルディス様怒らせちゃったりしたんじゃないの?」
あーゆー事ってどーゆー事だよ、と半眼で突っ込みを入れながら、怒らせちゃったと言う言葉に内心図星になる。
「あーれー?もしかして図星?」
そして敏感にそこに気付いてつついてくるカルロを心底面倒だと思いながら、上手くあしらう口実を作るために向こうの女三人の会話に耳をすます。
「……そうね、明日も早いし、そろそろ、ご飯食べましょう」
ちょうどその時に、侍女の……オリビアと言ったっけ……そんな言葉が聞こえて来たので、イグナスは内心でガッツポーズをとりながらカルロに言った。