あなたが教えてくれた世界
「……だそうだ。さっさと準備しろ、役立たず」
「えっ、役立たずってひどくないかイグナス」
「本当の事だろ。お前今日喋る事以外に何やった?」
「それは……まあ……うん……」
わいわいと喋りながら、先ほど放置していた焚き火の準備に再び取りかかる二人を見て、段々と晩飯へと雰囲気が変わっていった。
* * *
「はい、アルディス」
チーズを乗せて表面をこんがり焼いたパン一切れと、キャベツと芋ときのこと干し肉を塩と胡椒で炒め、盛り付けた小さなボウルを手渡し、オリビアは声をかけた。
なんだか家庭料理のようになってしまったが、野宿とは思えないほどの豪華な仕上がりに、彼女も満足していた。
ただ、予想通り六人分作ったらあっと言う間に食料がそこをついてしまった。
(明日の朝ごはんは近くの市場で買ってこなきゃ……)
確か、ここから目的地、ベリリーヴ侯爵邸に向かう途中にそこそこ栄えた市場があったはずだ。
寄ってもらえるようにハリスに言おうと心に留めるオリビア。
その彼女に、桜色の双眸がまっすぐ向けられた。
オリビアも、彼女に翠の瞳を向け、視線を合わせる。
幼い頃から何度も何度も行ってきた、二人の間の決まった光景。
口数はかなり少なく滅多に喋らないアルディスだったが、こうしてよく目を合わせると相手の言いたいことがわかるのだ。