あなたが教えてくれた世界



その頃アンはまだ働くなんて考えた事もな かった。アンの家はかなり貧乏だったが、 働くのは父親と母親で、それが当たり前だ ったのだ。


何となく、彼女が自分と何歳かしかかわら ないのに使用人長というものを任されてい る理由がわかる気がした。


……もちろん、アンはその噂を丸呑みして 信じていたわけではないのだが。


噂を否定するかのように、二人の顔は全く 似ていなかった。


アルディスは知っての通りピンクブロンド 髪が特徴で、繊細で柔らかな優しい顔立ち をしている。


それに対してオリビアは、イルサレム人に は珍しい透き通る様な銀髪で長身、そして 目鼻立ちがはっきりとした顔立ちだ。


日雇い使用人と言う身では皇王陛下の顔な ど到底拝めるものでないので何とも言えな いが、二人の顔を比べても、姉妹と言える ような強い特徴は見受けられなかった。


(…………!!)


そこまで判断した時、唐突にアンの頭の中 に閃くものがあった。


(……そういえば、さっき……)


アンは、先刻のオリビアの言葉を思い出し てみる。


『アルディス、ちゃんと聞いてるの?』


オリビアは、それを全く自然に言ったのだ 。


この言葉は、国の第二王女に使うには実に 不似合いな言葉である。


まず、口調が敬体でない事。アンはともか く、アルディスよりはるかに年上の使用人 も当たり前に彼女に敬語口調を使う。


それから、彼女を名前で(しかも呼び捨て で)呼んだこと。彼女を名前で呼べるのは アンの知る限りでは、両親しかいない。


オリビアがそんな口のききかたをするのは ……姉妹という対等な立場だから?



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