あなたが教えてくれた世界
これは、『ありがとう』という時の瞳だ。
それに応えるように微笑みを返すと、アルディスはゆっくり視線を外し、チーズトーストを一口かじった。
ゆっくりと咀嚼し、飲み下すような間があったあと、彼女はもう一度視線を上げた。
何かを伝えようとする目が再び見えて、オリビアが覗くようにしてまた目線を合わせると、今度は彼女の唇が動いた。
「……美味しい」
「……え?」
一瞬、何が起きたのかわからなくて聞き返す。
「……美味しい。ありがとう、オリビア」
表情は乏しいけれど、まっすぐに見つめてくるその視線と、たどたどしい言葉が、彼女への感謝を充分に伝えてくる。
「……アルディス……」
呆然としたまま呟き、はっとして笑顔をつくった。
「え、ええ。良かったわ」
まだ戸惑いの残る頭でどうにか返事をして、パニックを静めようとしながらその場から離れた。
自分の分の食事が置いてある馬車の荷台の所に戻り、近くにいるハリスに声をかける。
「ハリス、なんだかアルディスの様子がおかしいの」
彼は少し驚いた様にオリビアを見た。
「様子がおかしいって……どうした?」