あなたが教えてくれた世界
(私は……)
アンは自分がどうすべきか迷った。夜会用 のドレスなんて、一人で着させられるもの ではない。
自分も手伝うのか、そんな仕事は言われて ないので、でしゃばらずに担当の侍女を呼 んできた方が良いのか……。
数秒逡巡し、最終的に、日雇い使用人の分 際で、高貴なお方の着られるものを触って はならないと自分で結論を出し、他の侍女 を呼んでこようと踵を返そうとした時だっ た。
「ああ、あなたも手伝ってくれるかしら? 」
オリビアが、アンの方を見て声をかけた。
「私、ですか……?」
「そうよ?さすがに夜会用を一人で着させ るのは無理よ」
「しかし、私は着替えを担当しておりませ ん。よろしいのですか……?」
「侍女頭のあたしが許可するわ。というか 、着替えを手伝いなさいという指示だと思 いなさい」
「はっ、はい!!」
オリビアはもう一度こちらを振り向き、
一瞬、微笑んだように見えた。
* * *
軍事教官室は質素な部屋だ。
この部屋に訪れるのはこれで三度目だが、 その度にカルロはそう思う。
「あの……用事ってなんなんですか」
カルロの隣に立つイグナスが、机の向こう にある革張りの椅子に座ったレオドル・ド ・ラングウェイに尋ねた。
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