あなたが教えてくれた世界



オリビアは完璧な侍女の笑みを張り付け、待っていた使用人らしき者に礼をする。


「遅くなってしまい申し訳ありません。わたくし、リリアス・デ・イルシオンの侍女頭、オリビア・カスターニと申します。本日はお世話になります」


彼らの中で一番偉いと思われる執事らしき男性が、それを受けて柔らかな微笑みとともに言う。


「どうぞいらっしゃいました。昨晩の嵐で道中苦労も多かったでしょう。どうかごゆっくり、疲れを癒していただきたい所存でございます」


「ありがとうございます」


「それでは、中にご案内いたします」


執事の言葉を受けて、オリビアはハリスに馬車を進ませるよう合図を出した。


ところが……


「……ああ、申し訳ありません、こちらより先は、リリアス様のみでお願い出来ますか?」


まるで馬車を遮るかのように、執事が先ほどと変わらぬ笑みを張り付けたまま、そう言った。


「……と言うと?」


同じく笑みのまま、オリビアも応じる。


「当主のゼネラル様は体調が優れておいでではなく、何人もの方が屋敷に入られるのはよろしくないと医師に言われまして……ですので、こちらより先は、リリアス様お一人でお願いいたしますでしょうか」


(……どういうこと?)


つまり……オリビアと騎士たちは屋敷の中には入れないということか?


瞬間的に感じる、違和感。


いくら体調が優れないとは言え……そんな、大きな無礼に値することを、このベリリーヴ侯爵家が言い出すだろうか?


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