あなたが教えてくれた世界
医者を出されてはこちらとしても下手な事は言えない、オリビアは詰まりつつも、「……しかし、」と切り出した。
「リリアス様お一人では身の回りの苦労も多いでしょうから、わたくしは着いて行かせていただきます」
「いえ、その必要はありません。こちらの方で身の回りの世話をする侍女を用意させていただきました」
そう言うと、今まで執事の両脇で黙って話を聞いていた侍女服を着た二人の少女が一歩前に出てくる。
「心配なことも多いでしょうし、他人に大切な皇女様を預けるのは頼りないとは思いますが、こちらもきちんと指導をしていますのでご安心ください」
そう言う執事の言葉から滲み出るのは、『ベリリーヴ侯爵家としての風格』。
オリビアは言い返す事が出来ずに、黙りこんでしまった。
「あなた様もお疲れだと察し上げます。ここは、こちらに任せてどうかお休み下さいませ」
余裕すら感じられる執事の言葉に、彼女は下唇を噛みながら馬上のハリスに視線を送る。
ハリスは、仕方がないと言うように眉根を寄せて頷いた。
オリビアは、内心で溜め息をつきながら、執事を見返して言葉を返す。
「……わかりました。リリアス様の準備をして、荷物を下ろしますので少々お待ちください」
「もちろんです」
笑みすら浮かべて快諾する執事の男を睨み付けたくなる衝動をどうにかして押さえながら、踵を返して先ほど出てきた扉から馬車の中に乗り込んだ。
ガチャリ、と扉を閉め、待っていたアルディスと向かい合う。
「……予定が変わったわ」
そう言うと、アルディスはきょとんとした視線を送ってくる。