あなたが教えてくれた世界
それにこの色は、アルディスの桜色の髪と瞳にもよく映えるので、オリビアは気に入っていた。
「始めるわよ、アルディス」
一通りこちらの準備が整ったのでそう声をかけると、アルディスは静かに頷き、目を閉じた。
オリビアはてきぱきと、今着ている楽な出歩き用の衣装を脱がせ、慣れた手つきでドレスを着付けていく。
本来なら気付けは何人かで行うものなのだが、オリビアの場合はよほど盛装用の複雑なものではない限り一人で難なくこなせる位には気付けが得意だった。
やがて、首の後ろにあるホックを留め終わると、オリビアは髪のセットに手をかけた。
櫛を片手に、耳の上の髪を後頭部で一つのお団子にまとめる。残った髪は軽く巻いておきたいところだが、生憎そんな時間はない。
しかし、彼女の艶やかでまっすぐな髪なら、そのままでも十分に見映えがする。特にドレスの色が良いので、長さと色を強調するととても魅力的に映える。
あとは、いくつか小さな髪飾りを付け、薄く化粧をすると、アルディスは皇女として十分すぎるほど見劣りしない姿になっていた。
できばえに満足そうに頷いたオリビアは、彼女にゆっくり声をかけた。
「完成よ──リリアス」
すると、アルディス……いや、リリアスは、閉じていた目をゆっくりと開けて、微笑む。
「ありがとう、オリビア」
──その、彼女の“つくられた”豊かな表情に、どこか恐怖を覚えるようになったのは、いつからだろう。
目の前で微笑んでいる、愛しい義妹のようで、義妹でない、彼女。
──一瞬浮かんだ思考をなんとか押し留め、オリビアは微笑み馬車の扉を開けた。