あなたが教えてくれた世界



助けが来ないように、外の騎士に気付かれないように、と言う思惑が見える気がするのは、彼女の気のせいだろうか?


ふと思いついて、リリアスは持ってきていた荷物の中から、一つの袋を引き寄せる。


その袋から取り出したのは、小さな飾りのついた短剣だった。


──そう、出発する前に、彼女の母親がくれたものだ。


その磨かれた刀身を見据えながら、彼女は強く思う。


(……もし、何かあったら、自分で自分を守らなければならない。ここには、騎士の人はいない)


そう、この屋敷に、リリアスは一人なのだ。


窓から射し込んだ光を受けて、鋭い刃が白く光った。





     *   *   *





その頃、屋敷の裏側、森の中では──


「この辺……で、良いかしら?」


屋敷の中に入ることを拒まれた五人が、昨日に続き野宿の準備をしているところだった。


彼らの近くには、五頭の馬と馬車もある。


本当は、「馬と馬車はこちらで預かりましょうか?」と申し出されたのだが、万が一の事を考え──と言うか、侯爵家を信用していなかったから──ハリスがそれを断り、ここにともにいると言うわけだ。


しかし、ここにいるより、一晩でもゆっくり休ませてやった方が、馬にとっては嬉しいのだろう。


そう考えると、純粋な良心からの申し出と考えられないでもなかったが、やはり腑に落ちない。どこか気になる。



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