あなたが教えてくれた世界
自室で……つまり、部屋から出られないほどに、体調が優れないということなのだろうか?
「……そうですか。ありがとうございます」
もやもやとした思いを抱えながら、ちょうどそのタイミングで運ばれてきた料理に、リリアスは会話を切り上げた。
前菜は、新鮮な野菜が添えられた白身魚のカルパッチョだった。
万が一と思いながら、一応毒などないかと注意しながら口に運ぶ。
(……どこもおかしいところはないようだわ)
普通に、美味しい料理だった。
グラスに注がれた、アルコールの弱い透明な葡萄酒も、同様に不審な点はなかった。
(考えすぎなのかしら……?)
野菜を上品に口に運びながら、リリアスは悩む。
怪しむべき点はいくつかあるにしろ、何もしかけて来ないようだし……。本当に、ゼネラル・ベリリーヴ侯爵の体調が優れなくて、仕方なくこのような対応をとったのだとも考えられる。
続いて出てきた料理もおかしい点はなく、そんな考えにも後押しされて、デザートが出てくる頃には、彼女の中に残る警戒心はかなり薄らいでいた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったですわ」
そのデザートも食べ終わり、リリアスは近くにいた給仕の少女に声をかける。
席を立つと、後ろの扉が開き、何人かの足音がした。食器の片付けをする侍女か何かだろう。
彼女は特に気にせず、振り返ることなく入ってきた方の扉に向かう……が。
「──!?」
突如、後ろから乱暴に肩を掴まれ、羽交い締めにされる。
脳が警鐘を鳴らして、何か声を出そうとするのよりも先に、感覚を支配したのは、甘い香り。
(睡眠薬……?)
睡眠作用があるという、ミカヅキソウの根の粉末の匂いと似ていた。
そして、口元がそれを染み込ませた布で覆われていることに気がつく。
(やられた……)
急激に遠のく意識の中、彼女の中にいる冷静な自分の声がした。
『──ほら、油断してはいけないと言ったでしょう』