あなたが教えてくれた世界



しかしそんなことよりも、アンにはアルデ ィスの表情に目がいった。


アルディスは今、まわりの貴族たちと見事 に社交していた。興味深げに聞き役に徹し、そうかと思えば自分も何か話している。


それも、偉いお嬢様特有の傲慢な態度や嫌 味な部分を見せず、まるで令嬢の手本のよ うな上品さだ。


しかし、いつも無反応を決め通す彼女を知 るアンにはにわかに信じがたい光景だった 。


今のアルディスは、いつものアルディスと 、本当に別人のようだと思う。


アンはふと、着替えを手伝っているときの 違和感を思い出した。


どんな違和感かと言われれば説明出来ない が、何だか、アルディスの雰囲気が一変し た気がしたのだ。


いつもの彼女の、美しいけれども儚く繊細 で、生気のない雰囲気が、あるときからか 、気品のある優雅な皇女のそれに変わった 。


しかし、アンの模索もそこで中断せざるを 得なくなった。盛装の中年の女性が、鴨の 大皿を抱えるアンを邪魔そうにじろじろ見 ていたのだ。


(いけない、仕事の途中だった……)


アンは止めていた足を再び動かし出す。


(信じられないけど信じよう。あれもお嬢 様の別の姿でもあるんだ……)


彼女のその見解は、ある意味では当たって いた。後で詳しく知ることになるのだが。


その時、遅まきながら皇王フレグリオが到 着し、会場全体がにわかに騒がしなった 。


(お父様……!!)


伯爵の跡取りとなる青年と話していたリリ アスも、騒ぎに気付き父親の来訪を知った 。


(お母様は……?)


彼女はさっと目を凝らしたが、フレグリオ の周辺に母親である女王アイトリスの姿は 見つからない。



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