あなたが教えてくれた世界
「……ありがとう、ハリス」
主人のいなくなった玄関で、鍵を握りしめた女……オリビアはほっとしたように言った。
「大したことじゃないよ。始めから僕が言いに行った方が良かったかもね。国家直属の騎士団の頼みなら断れないだろ?」
ハリスは傍らのオリビアにそう言いながら、少し離れたところにある馬車に、こちらに来るように合図を送った。
ベリリーヴ侯爵邸から脱出した彼らは、援軍が来る可能性を考慮して、すぐに立ち去った方が良いと判断し、そこからずっと馬を走らせて来たのだった。
すぐにブレンダが頷きを返し、アルディスに手を貸して馬車から降ろすとゆっくりこちらに歩き出す。
イグナスとカルロは馬をとめに裏の厩舎に向かった。
「三階の奥の二部屋。オリビアも先に行ってて」
近くまで来たブレンダに声を抑えてそう伝え、オリビアにも先を促す。
「僕は二人を待ってるからさ」
二人は頷くと、ともにアルディスを支えながら階段の奥へ消えていった。
少しして、合流した男三人が登っていくと、奥の部屋の前では指示を仰ぐようにオリビア達が立っていた。
ハリスはさっと部屋の様子を見て、少し広そうな奥の部屋を示す。
「アルディス様とオリビアはこちらの部屋を。もう一部屋は僕たちがまとめて使うけど、一応追尾されて夜襲される可能性を考慮して、夜どうし交代で見張りにつこう」
「はっ」
騎士達のぴしっとした返事が重なる。オリビアも頷き、奥の部屋へアルディスを誘導する。
しかし。
「……あの、すいません、その前に」
突如、その流れを断ち切るような、どこか間延びした声が響いた。
「さっきの説明とか、してもらっても良いすかね?」
突然口を開いた、少しだけ口元に笑いを浮かべた男──カルロに、全員の視線が集まる。
「さっきの説明?なんのことだ?」