あなたが教えてくれた世界
あてがわれていた部屋はお世辞にも大きいとは言い難く、六人が入るとすぐに一杯になってしまった。
カルロと少し距離を空けて壁際にもたれたイグナスは、その視線を自然と部屋の中心にいるアルディスに向ける。
その傍らにいたオリビアは、そっとアルディスを伺うように視線を送った。
「……全部、話すの?」
静かなオリビアの問いに、アルディスはこくりと頷く。
「私から……リリアスとして、話す」
"リリアスとして"という言葉に引っ掛かりを覚えるより先に、オリビアの瞳が見開かれたのが見えた。
しかし一瞬のことで、彼女はすぐに侍女の顔になって頷いた。
「……少しだけお時間を頂きます」
オリビアはそう断りをいれて、アルディスを連れて部屋の隅に向かう。
その途中、一瞬だけ許可をもらうように入り口の近くにいたハリスと視線を合わせ、彼が任せるというように頷いたのが見えた。
何かあるんだ、とイグナスは察した。
恐らくハリスは、これから彼女らが話すだろうことを知っている。
侍女のオリビアとハリスが旧知であることは何となく感じ取っていたが、あの様子だと相当深い仲のように思えた。
ハリスを除く騎士たちの怪訝な視線が集まるなか、部屋の隅に着いたアルディスは、黙って瞳を閉じる。
オリビアがそのすぐ前に立ち、その肩を両手にかけ、二人にだけ聞こえる小さな声で囁く。
「……あなたはイルシオン皇国第二皇女リリアス・デ・イルシオン……」
"アルディス"を眠らせるように静かに、しかし、"リリアス"を底から起こすようにはっきりと。
目を閉じたままのアルディスも、同じように復唱する。
「……私はイルシオン皇国第二皇女リリアス・デ・イルシオン……」