あなたが教えてくれた世界
言いながら、これをやるのは久しぶりだとオリビアは思っていた。
普段は着替えの段階で時間をかけて人格の交換を行っているアルディスだが、これは緊急の事態──すなわち、公の場でアルディスが目覚めた時など──にオリビアが行っていた応急措置のようなものだ。
幼い頃は何度か行っていたのだが、最近は安定してきて殆どやらなくなっていたのだが……。
そんなことを思い返しながら、オリビアが囁き、アルディスがそれを繰り返すというのが三度ほど続く。
そのあとでゆっくりと瞳が開かれたとき、そこにいたのは"リリアス"だった。
「……ありがとう、オリビア」
ゆっくりと視線を上げたリリアスは、オリビアと目が合うとその唇を三日月形に歪めた。
転瞬、ぞく……と、どこか深いところが震えるような感覚が、オリビアを襲う。
そのどこか冷たい微笑みを、恐いと感じている自分に、オリビアは驚いた。
(……何を、考えているの、私は)
すぐさまその意識を追い出したが、動揺のせいが一瞬動きが止まる。
その間にリリアスは真っ直ぐと歩を進め、部屋の真ん中に着くと優雅な動きで頭を下げた。
そのまま、彼女の桜色の唇が開く。
「……まず、謝らせて下さい。わたくしたちは、あなた方を騙していました」
突然のことに、ブレンダのみならずイグナスやカルロも一瞬面食らった表情をする。
「あの、頭を上げてください。どういうことなのですか?」
一際驚いた様子のブレンダが、戸惑いの隠しきれぬ声音で聞き返す。
「……騙してた、ね……何をどう騙してたわけ?」
続いて溢されたカルロの問いかけにリリアスの頭が上がる。
「……それについて説明するために、わたくしは今こうしているのです。改めまして、名乗らせて下さい。
わたくし、イルシオン皇国第二皇女、リリアス・デ・イルシオンと申します」